輪島塗ができるまで
1. 木地、切彫り
木地師による燻蒸、荒型、荒挽き、成型された物が木地です。
木地は生きていましたから、節などの生存活動の証があります。
よって、この時点で木目の継ぎ目、外れ易い小節や割れなど後々トラブルになるところを小刀で取り除きます。これを切彫りといいます。
2. 木地固め
木地全体に生漆(きうるし)をしみこませ、木地を固めます。結着力の強い生漆を使用することによって、木地の腐敗を防ぎ、がたつきなど狂いを抑える第一段階を踏ませます。見学される方からは、白かった木地から黒くなったことに驚かれますが、これは漆が酸素と結合するほど黒くなるためです。当初の生漆はベージュ色をしています。
3.刻苧
木目の残った木地のままではスムーズな塗肌は実現しません。この段階では切彫りした箇所などもはっきり残っています。
この肌の凹凸をなくすために、刻苧漆(こくそうるし)を塗って凹面を補います。刻苧漆は、米糊、木粉、生漆で構成されています。
4.木地磨き
漆を塗った後の表面は、ウルシオール被膜が結成され、水をはじく構造になっています。このつるつるの表面ではあたらしい漆の取り付く島がありませんので、粗いサンドペーパーで木地を磨き、次に塗る漆の接着をよくします。
5.布着せ
お椀の縁や高台など、接地機会の多く痛め易い箇所に布を張って補強します。寒冷紗という木綿の粗い生地を細く切って列にし、糊漆を塗りつけます。粘度の高い漆をたっぷりと含んだ細い寒冷紗の布端ををヘラでくるくるととり、貼付けてゆきます。
6.着せ物削り
布着せが固まったのち、布の縁や重なった個所を削り、滑らかにします。
7.惣身付
布着せと生地の間には僅かな段差ができています。この段差をなくすために、惣身漆という、木粉を炒った粉と生漆を混ぜたものを境目に均一に塗り付けます。
塗る範囲は品物の機能に応じて施してゆきます。
8.惣身磨き
惣身漆を施したところに粗いサンドペーパーをあてて全体を磨きます。
9. 一辺地付
一辺地粉と呼ばれる、珪藻土(輪島地の粉)を焼いて荒くふるい分けたものを生漆、米糊と混ぜて一辺地漆を作ります。
一度にすべての面を塗ることができませんので、各部分を分割しながら塗ってゆきます。
お椀の縁など特に丈夫にしたい箇所は、生漆をたくさん盛りやすい桧皮ヘラを使って地縁引きをします。
10. 一辺地研ぎ
荒い砥石を使い、全体を空研ぎします。
次の漆が上手くくっつくように整えます。
11. 二辺地付
二辺地漆(組成は同じ、二辺地粉の粗さが中ぐらい)を一辺地と同じように塗面を分割して塗っていきます。
12. 二辺地研ぎ
砥石やサンドペーパーを使い、全体を軽く磨きます。
次の漆が上手くくっつくように整えます。
13. 三辺地付
地の粉(焼成珪藻土)の中で一番きめ細かい三辺地粉を、米糊と生漆に混ぜ、三辺地漆を作ります。これも同じように面ごとに何日か分割して塗っていきます。
こうして段階的に珪藻土の粗さを使い分けることで、すべらかな塗面の実現へ向かってゆきます。
14. 三辺地研ぎ
塗面をしっかり固化させたのち、砥石や粗いサンドペーパーを使い、全体を軽く磨きます。
15. めすり
砥の粉と生漆を混ぜた錆漆を薄く塗り、肌を細かくします。下地職人の仕事はここまでです。
さて、漆は毎度どうやって乾かしているのでしょうか。
漆器は「湿風呂」と呼ばれる木製の湿度のある箱に入って、塗面を固化させています。湿度75~85%、気温20~25度が最適といわれていますが、実際はその日のお天気条件によってまちまちです。
毎日、漆の「ご機嫌麗しさ」を伺いながら調整をしてゆきます。
16. 地研ぎ
全体を丁寧に砥石で水研ぎします。
コツと体力、持久力が要求される体力仕事です。
塗を施す形は様々です。家具のように大きなものもあれば、お雛様の道具のように小さなものもあるため、拭き上げ場の職人たちは各々自分の"道具”を作って持っています。年代物の缶の中には、職人のみぞ知る、多種多様な研石が雑多に入っています。大体数百個ありますが、その中から最適な石を充てて作業します。
17. 中塗
地研ぎが終了したのちに、中塗漆をかけます。
ここでは、粘性の高い下地漆のためのヘラから、よりさらさらした漆のための刷毛に持ち替えて作業します。ある種の転換点です。
中塗は、ゆるく湿度を保った下地用の湿風呂とは違って、強めの湿をかけて乾燥、凝固させます。
18. 中研ぎ
中塗りが終了したのちに、再度拭き上げにて中研ぎを行います。
ここで塗り忘れた穴などがあれば補填をします。
また、脚など接地面のぐらつきもここで最終補正をします。
19. 小中塗
もう一度、中塗り漆で丁寧に塗ります。
修正されたものが崩れてこないように、ここできちんと“留め”ます。湿らせた湿風呂で凝固させます。
溜や、朱の仕上げであれば、赤中塗りを施します。(写真右)
これは溜下とも呼ばれ、朱に塗ったときの見栄えをよくし、黒い下地が出てくるのを防ぎます。
更に、溜塗でも中塗りが黒いものは黒溜と呼ぶこともあります。
20. 小中塗研ぎ
全体を丁寧に青砥石または駿河炭で水研ぎします。
漆は、油や汚れを嫌います。美しく仕上げるには、手で触った跡などをきれいに拭き取り、上塗りへバトンタッチします。
21. 上塗
漆の混合調整をします。日によって、乾きが早い、とか、遅いなどがありますので、ここであらかじめ調整をします。国内産の上質な上塗漆を内と外、二回に分けて塗ります。作業中は塵埃、刷毛目筋、塗厚に気を付けて、平滑な“仕上げ”のために丁寧に塗ってゆきます。
当然、液体というものは垂れてきます。漆は粘性も高く厄介です。そこで、回転風呂に入れて落ち着かせます。このように職人の技術と組合せながら、均一な塗面の実現を可能にしているのです。
22. 呂色
塗りたての味わいもよいですが、水をたたえたような底艶を反射する点も呂色の魅力です。
上塗をさらに平らにし、専用の砥の粉と油をつけて磨き上げます。ここでも手のひらや指先が頼りになります。
またこの工程では、蒔絵や艶を上げるための下準備である胴刷をしたり、乾漆や石目、木目、布目、金属蒔き、多色塗の変わり塗などを施したりなど、加飾の一端を担います。
23. 沈金
表現に適した沈金刀を用い、塗立または呂色ツヤを施した面に図案を施します。作業個所は断面図で見るとV字になっており、その谷底に漆を沈め、金箔又は金粉を押し当て、剥離を防ぐために再度漆をかけるサンドイッチ構造で仕上げます。余分な漆等をふき取り、湿気のある布巾などで湿をかけて定着させ、再度余分な金属を磨いて取り除き、完成させます。
この金を沈める点から、沈金と呼ばれます。やり直しがきかず、線、点、面が主のため、確たる実力が要求されます。
24. 蒔絵
沈金が塗面をゼロとしてひたすら彫ってゆくのに対し、反して蒔絵は盛ってゆくことを基本とします。立体的な構造も得意です。
先ず胴刷りと呼ばれる、非常に細かい傷がついた塗面に図案を転写し、骨組みとなる線を描いてゆきます。塗り込みをし、この際金粉などの金属粉を“蒔く”ので蒔絵とよばれています。
蒔いただけでは金属的な輝きは出現しないので、再度漆で定着させ、研ぎ、を繰り返します。1セットで終わることもあれば、技術的にも難易度の高いものとなると金本来の光を放つまで、漆を塗っては磨き続けることを繰り返します。
25. 完成
仕事を受ける人、回す人、職人、検品、輸送など沢山の人の手を経て、塗立や、つやのあるもの、変わり塗、蒔絵、沈金などの加飾が施された品がお客様のお手元へ届けられます。
まずは喜んでいただくこと。時代流行やお客様のアイデア、生活様式が変わっても、創業時からこの思いは変わっておりません。
包装をほどいた時に「!」とお気に召していただけたら、誠に幸いです。
これからも、弊社を何卒よろしくお願い申し上げます。